速度推移表は、
– 絶対速度(何手スキか)
– 相対速度(どちらが何手速いか)
に加え、
– それぞれの手による相対速度の変化
を視覚化するツールです。
速度推移表を作成してみて自分が学んだことを挙げてみます。
1.敵玉を1手縮めることと自玉を1手延ばすことは価値が同じ
例えば、敵玉も自玉も2手スキで自分の手番だとします。
敵玉に詰めろをかけて一手勝ちを目指す考え方と、自玉に詰めろがかからない形(=3手スキ以上)にして勝ちを目指す考え方は、状況に応じて選択すべきであって、考え方自体に優劣はない。
(追記:どちらでもよいのであれば前者のほうが読みの量が少なくなるので好ましいですが、前者に読みの比重を置き過ぎないことが大事だと思います。)
2.途中経過で相対速度が優位であっても、攻め駒不足で「失速」したり、攻防手などで逆転することは珍しくない
攻めの継続性や手厚さ、玉形の安定度といった要因がどのように相対速度に影響するのかが速度推移表によって視覚化されます。ここから、実戦においてこれらの要因を速度評価に組み込むことの重要性がわかります。
3.「敵玉を1手縮める手」や「自玉を1手延ばす手」は手番の消費と相殺されるため相対速度を変えない。「敵玉を1手縮め、かつ自玉を1手延ばす攻防手」や「自玉の詰めろに対し、詰めろがかからない状態(3手スキ)にする手」は2手分の価値があり、相対速度を改善する
速度推移表を作成することで、どの手が2手分の価値がある手だったかを認識することができ、そのような手のパターン理解が進みます。
4.攻防手は攻防の角打ちのような手だけでなく、もっと地味な手も攻防手になることがある
攻防手と言ったときに、視覚的にわかりやすいことから、自陣・敵陣双方に利く角打ちのようなものがイメージされがちです。しかし速度推移表を作成してみると、攻防手はそのような「派手」な手だけではないことがわかります。
例えば以下のような手です。
– 受けつつ駒を入手した手が敵玉への距離を縮める
– 駒を受けに使わせる手が自玉の安全度を上げる
実際、前述の棋譜では8手目42同金や16手目65竜が攻防手になっていました。
3.でも述べましたが、どのような手が攻防手になりうるのかの例を多く知ることができます。
5.詰みから遠い段階で、何手スキかの距離感覚が身につく
速度推移表の作成過程で見た通り、手順の最初のほうでは何手スキであるかの計算を保留し、2手スキ前後に差し掛かった局面から逆算して「遡って4手スキや5手スキだった」と推定しています。
表の作成を通してこのような速度推定を行うことで、4手スキや5手スキとはどのぐらいの距離感なのか、感覚をつかむ練習になると思います。
私たちは中盤、終盤、最終盤と進む過程で、ある段階で「現局面からの積み上げ思考」から「詰みからの逆算思考」にシフトします。詰みから遠い玉への距離感が正確になることで、その考え方のシフトがより早くできるようになるでしょう。
6.速度推移表は手の良し悪しを判断するツールではない
速度推移表は、棋譜に速度に関する情報を追加したものに過ぎません。いわば野球のスコアブック的なもので、それぞれの手の良し悪しは評価しません。情報をどう解釈するかが重要であることは分野を問わない話ですが、速度推移表はその解釈を助けるフレームワークとして使えるのでは、というのが私の立場です。
みなさんがもし一度も作ったことがないのであれば、1回ぐらい作成してみることをお勧めします。みなさんが何か得られることがあれば幸いです。