逆転術と速度計算

逆転するためには局面を複雑にすること。その理由は優勢側を間違わせるため。棋書にはそう書かれています。

具体的に何をすれば局面が複雑になるのでしょうか?そもそも複雑な局面とは具体的にどういうものでしょうか?

駒が多く当たっていると複雑でしょうか。手が限定されて読みやすいという側面もあり、必ずしも優勢側が間違いやすいとも言えません。逆に漠然とした局面で手を渡されるほうが、手が広く間違えやすい気もします。

アナロジーを得るために少し視点を変えて、詰将棋における複雑さとは何でしょうか。例えば変化や紛れの多さ、伏線、意外性といった要素があると思います。

これを実戦に置き換えると、手の広さや発見しづらさといったものになるでしょう。定性的に言うと「読みの質量を要求する局面」ということになりますが、この言い方は具体的にどんな局面かを表現していません。

よく言われるのは「敵玉と自玉の両方を考える局面は片終盤よりも難しい」というもので、読みの質量が増えるため、複雑さの条件を満たしそうです。

さて、優勢の局面からソフトと指し継いでみると、ソフトはまさにその複雑な局面を作って粘ってきます。ソフトはどうやってそんな局面に導いているのか、例を挙げてみます。

・早逃げと駒を埋める手を多用する
・節約しつつ手を延ばす
・駒を溜めたり質駒を作りながら受ける
・受けつつ反撃筋を準備(例:自陣香、自陣の歩を取らせる)
・利かしの応手によって攻守を選択する
・玉を露出させて攻防手をかけやすくする
・駒が入ると詰む形にして手を渡す
・受けなし後はトン死狙いの王手ラッシュ

これらをまとめると、劣勢になったソフトは、相対速度を離されず、かつ明快に負けになる変化を避けるように消去法で手を選んでいるように感じます。

複雑な局面にするとは、自玉の寄りを回避しつつ反撃筋を作り、明快な負けとは言えない一手違いを目指すことと言えそうです。

そのためには、将来の局面が「明快な負けとは言えない一手違い」であると判断できることが必要であることに気付きます。
すると結局のところ、速度計算に話が戻ってくるというわけです。

ソフトが複雑な局面に導いていく過程を分析するため、私は「速度推移表」を作ってみることにしました。「速度推移表」とは、双方の玉が何手スキであるかの推移を棋譜上の手順とともに記す表のことです。双方の玉の相対速度が視覚化され、どの手で差が拡大したのか、縮まったのかがよく見えるようになります。

次の記事で、実際に速度推移表を作ってみようと思います。

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